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込み入った店内は静寂を司る場所とは対極にあり、騒がしさの真っ只中にある。あちらこちらから人々の話し声が聞こえ、そこかしこから笑い声があがってくる。それもそのはずだろう。今日は土曜日。大抵の人は休日であり、出かけるにはもってこいの曜日である。
街は活気づき、平日とは少し異なる賑わいを見せている。それは赤と黄色の看板が目印のこのハンバーガーショップにおいても同じことで。昼をとうに過ぎた今の時間帯であっても、学生や主婦、恋人同士などが所狭しと席についていた。そんな中。
「ちょっ、な、てめっ…山本…!おまっ、何聞いてんだよっ!」
窓から燦々と降り注ぐ太陽の光を一際浴びた席において、1人の少年が向かいに座っている少年――山本に食って掛かっていた。人目を気にすることなくぎゃーぎゃーと騒ぎ立て、抗議の声をあげる。しかし実際に抗議をうけている山本は、まったく気にしていないようだった。気にしないどころか、まぁ俺に任せとけって、と眉根を寄せている顔相手に笑顔を見せてしまうほどである。
あぁ、これだから天然はっ!少年は思わず心の中で毒づいてしまう。大らかで気さくで頼りがいがあって、男の立場から見てもかっこいいと思える友人だけれども、しかしこうして時々話が通じなくなるのが玉にきずだ。人の話を聞かない、というわけではないのだが。善意からくるお節介ほど心的疲労が蓄まるものはない。
少年が騒ぎ立てる理由。それは今、山本が手にしている携帯電話にあった。
少年にとって、今日は特別な日だった。久々の彼女とのデート。本来なら今頃は彼女とカラオケなりゲーセンなりに行っているはずだった。しかし現実、少年は今ハンバーガーショップに、彼女ではなく友人と一緒にいる。
どこでどう間違ったのか。少年は彼女と別れたあとからずっとそのことを考え続けていた。
確かに、確かに待ち合わせの時間に1時間近くも遅れたのは悪いと思う。しかし真剣に謝って謝って謝って謝って、ようやく許してもらうことが出来たのだ。それなのに、結局はビンタを貰ってどこかに去られてしまった。いったい何なんだ。少年は胸焼けを覚える思いだった。
ビンタを受け呆然としているところに偶然山本が通り掛かり、今に至るというわけだ。
ハンバーガーを食べながらの愚痴という名の相談をしてみたところ。じゃー電話してみりゃいいじゃねーかという結論。渋々ながら彼女の携帯に掛けてみると、返ってきたのは「ただ今お掛けになった電話番号は―――」という無機質なお決まりの文句だった。
怒ってる。彼女はキレている。そりゃもう携帯の電源を切るぐらいに。
少年は顔面蒼白になりそうになった。つーっと冷や汗がたれてくる。そのため、何も手に付かなくなった少年の代わりに、今度は山本が少年の「別にいい」という制止を受け流して自身の友人でもある少年の彼女の友人に電話を掛けたのだった。
彼女とその友人は仲がいい。もしかしたら彼女は今その友人のところにいるかもしれない。
「あー、ん。そう、ウィンリィ」
やめやがれっ、という少年の声をBGMに、山本の朗々とした声が響く。電話の向こう側も、いきなりした突拍子もない質問に戸惑っているのだろう。だが、ややあって。
「あ、いる?そっか」
ウィンリィいるってよ、と小声で言われた言葉に、少年はふいっと目を逸らした。オレが知ったこっちゃないという意固地な思いと、妙な罪悪感からだ。
ぐるぐると渦巻く複雑な感情は流れることを知らず少年の心に留まり続けた。だが、そっぽを向いている状態で制止している少年とは違い、山本の会話は淀みなかった。
「いや、今エドと一緒にいるんだけどよー」
苦笑が混じった山本の声に少年――エドワードは思わず顔を上げた。何を言う気だ。何を言う気なんだ、おまえは。さぁっとエドワードの顔が白くなっていく。だがそんなエドワードなどお構いなしに、山本はあたかも世間話でもするように、まったく和やかに言い放った。
「今からウィンリィとさ。ちょっとこっち来ねぇ?」
軽快に提案された言葉に、電話口の相手よりも先にエドワードが声にならない叫びをあげた。
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