突然の提案に、ツナが思わずえっ、と声を出したのと、また受話器の向こう側から取り乱したような声が聞こえたのはほぼ同じタイミングのことだった。その叫び声めいたノイズに、ツナは今度はひっ、と体を強ばらせる。なんなのだ。いったい、なんなのだろう。そんな疑問が頭の中をぐるぐると回った。しかしそんなツナのことなどお構いなしに、叫び声は相変わらず鳴り響く。ややあってから、そのノイズに覆いかぶさるかのように、いや無視をしたように、また山本の声が響いた。


「どうだ?そっち、これるか?」


その言葉に、ツナははたと我に返る。


「え、えーっ、と……」


彼女は言葉を反射的に濁した。そしてちらり、と向かいに座る幼なじみを見た。現在ウィンリィは、ぼーっとした顔でつまらなそうに芋けんぴを口に運んでいる。だが、しかし。ツナは知っている。先程までの彼女、つまりエドワードのことを話していた時の彼女の顔を。あの、冷たい目と低い声も。ツナは、考える。


「なんかよー。エド、喧嘩したみたいなんだよな」


彼女が黙っているのを、事情がわからないためと考えたらしい山本があっけらかんと説明しだしたその言葉に、適当に相づちを打ちながらツナは考えた。果たして、ウィンリィにこの提案をしてもいいのだろうかと。


「んで、そのままだって言うからさー。やっぱそれっていいことじゃーないだろ?」


しかし、考えても考えても答えはでない。もし、このままウィンリィに伝えたところで素直に頷いてくれるとは思えなかったからだ。機嫌が悪くなるだけではないだろうか。そして、その被害を被るのはいつだってツナ自身だ。それは、非常にいただけない。しかしかといって、このまま二人が喧嘩したままでいいとは思えなかった。普段世話になっている親友にはやっぱり、幸せでいてもらいたい。いよいよ本格に、ツナは頭を抱える。と、その時。とくとくと自らの考えを語る山本の声が途切れた。
アレ、とツナが思った、その瞬間だった。


「――――ツナッ!?」


怒声めいたエドワードの声が、ツナの耳に響いた。え、と呆気にとられたような声を彼女は思わず出す。しかし、呼び掛けてきた少年は彼女の言葉を待ちはせず、自らの言葉を告げてきた。


「いいかッ!?来るなよぜってー来るなッ!?ンな必要マジねぇからな!」

「え、えぇっ?」

「分かったな!?」

「へっ?いや、ちょっ…」

「分かったな!じゃーなっ!!」


その別れの言葉を最後に、ぶつんと一方的に電話は切れてしまった。思わず、ツナは恐る恐る携帯を見る。しかし、また携帯が鳴り響く気配はない。
なんだったんだ今のは、と彼女は考えずにはいられない。


「山本、なんかしたの?」


突然かかった声に、ツナはびくっとその主を見た。そんな彼女の様子に驚いたのか、ウィンリィはまた口を開く。


「な、何よ。どうかしたの?」

「え!?あ、いや、その…」


こちらを不思議そうに見てくる青い瞳に、ツナは思わず言葉を濁してしまった。背中から、たらりと嫌な汗が流れるのを感じる。どうしたらいいのか。彼女は、そればかりを考えていた。二人のことを思って、正直に山本の誘いを言うのか。それとも、来なくてもいいと言うエドワードの言葉に従うのか。


「その?」


だが、結局、ツナはこの自分を見つめてくる少女に弱かった。あわわ、と焦ってはみても結局ツナの答えは一つしかないのだ。彼女には、やっぱり早めに仲直りをしてもらいたい。それに、ここでウィンリィに嘘を付けるほど彼女は口が達者ではない。ならばとごくり、彼女は喉を鳴らす。そして、告げた。


「あ、あのっ。なんか、いつもの駅前の店に山本、いるんだって!」


声が妙に上ずった自身に、何してるんだとツナは思った。しかし幸いにもウィンリィは気にしなかったようで、彼女は首を傾げて口を開いた。


「いつものって……アルがバイトしてる?」

「う、うん!そう!で、でねっ。もしよかったらこないかーって…」


本来ならば、なぜ山本が呼んでいるのかを告げなければならないだろうが、そんな度胸はツナにはなかった。これが彼女の精一杯だった。あははと愛想笑いをしながら、ツナは恐る恐るとウィンリィを伺う。


「ど、どうする?」

「…ハンバーガーかぁ。うん、いいかも」

「そ、そう?じゃあ…」

「うん、行く行く!こうしてたってアレだし。気分転換に外に出た方がいいわよね」


よし、じゃあそうしましょっかと言いながら、いつもの彼女よろしくウィンリィは笑った。その顔を見て、ツナは取り敢えずはほっとする。だが、これからハンバーガーショップで起こるであろうことを考えると、なんだかお腹が痛くなってきて、ツナは、ははっと乾いた笑いしか返せなかった。