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早く出なくちゃ早く出なくちゃ。そう相当慌てていたために、うっかり声の量を間違えてしまったかもしれない。もしもし、とツナが力一杯出した声は、これでもかという程盛大に静かな部屋に響いた。
ツナは自分自身の出した音量に携帯電話を耳に付けたまま、あ、と固まり、思考を停止させた。背中につっと冷や汗がたれてくるのをぼんやりと感じとる。もしかして、まずい…?ツナは上手く回ってくれない頭をほんの少しだけ動かして肝を冷やした。
テーブル越しにツナの行動を見つめていたウィンリィも、彼女が出した声量に何事かといもけんぴを取る手を止めてしまった。
うっかり張り上げてしまった声。それは、ともすれば相手側の鼓膜をもきぃんと震わせただろう。何せ、通話ボタンを押して以来相手側はまだ何も言ってこないのだ。
あぁ、やっちゃった!ツナは自分のしでかした失態にさぁっと顔色を悪くしていった。いくら慌てていたからといっても、もう少しマシな対応はあるだろう。それなのに、何であんなでかい声出しちゃったかなぁ。ツナは咄嗟に取った自分の行動を、物凄く、心の底から嘆いた。
どきどきとうるさい鼓動だけが耳に届き、まるで自分が心臓だけになってしまった気分だ。送られる血液はちっとも身体を温めてはくれず、逆に焦りや不安を全身に満たしていった。
後悔ばかりが頭の中を埋め尽くす。しかしそうしていても、いつまでも悔やんでいても嘆いていても仕方がない。
ツナは携帯電話を少し離してから、2・3度咳払いをした。そして数回深く呼吸する。ばくばくと鳴り止まぬ鼓動は、未だ緊張を全身に張り巡らせていく。しかし、それを押し込めるようにこくりと唾を飲んだあと、彼女は再び携帯電話を耳元に寄せた。
「も、もしもし…」
落ち着いて、今度こそ正常な声量で呟く。全神経が、携帯電話を押し当てた耳に集中してしまっているのかもしれない。片方の耳だけがいやにじくじくとしてくる。
相手側がどのような反応を見せるのか、ちゃんと返事が返ってくればいいな、とツナは心臓をばくばくさせて携帯電話に耳を寄せた。そうして相手が何事かを言うのを待ちながら、そういえば、と彼女ははたと、今更ながらのあることに気が付いたのだった。
相手側、つまり今携帯電話を通して通じてるのはいったい誰なんだろう、と。焦っていてディスプレイに映る名前も見ずに通話ボタンを押してしまった。そのため、いつもなら事前にわかることであっても今回は確認出来ていない。
そもそもツナの交友関係は狭いのだ。昨日から携帯電話を鞄に入れっぱなしにしていてそれに気が付かなかったように、連絡が入ることは滅多にない。それに、数少ない連絡は大抵、今現在目の前にいるウィンリィからのものである。しかし彼女は今手に携帯を持ってはおらず、そもそもこの状況でツナ相手に電話を掛ける意味がない。彼女という可能性が潰えてしまって、ツナは少し混乱した。ウィンリィの次に連絡が多いのは獄寺であるが、彼は今バイト中であるからさすがに連絡を寄越すということはないだろう。
妙な緊張がツナの胸に押し寄せる。卓上電話ではないのだから相手は知人だろうが、しかし間違い電話やいたずら電話の可能性がないわけではない。むしろ今まで何も言ってこないあたり、いたずら電話の可能性が高いのではないだろうか。
ばくばくとまた鼓動が早まっていく。嫌な汗がたらりと流れ落ちる。不安と動揺ばかりが入り交じった緊張が身体全体にのしかかり、ツナはただぐるぐると混乱し続ける頭を持て余していた。だが、
「あ …………、ツナ?今大丈夫か?」
苦笑を含んで聞こえてきたノイズ混じりの声に、ツナははっと我に返った。それは彼女にとって予想外だった声で、かといって知らない声というわけでは全くなく。
「や、山本?」
想定外の通話相手に、ツナはぱちくりと目を瞬いた。
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