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驚いた、というよりは拍子抜けしたといったツナの呼び掛けに意外な電話相手は明るい声を返してきた。
「おう、俺だ。えーっと、ツナ。今電話平気か?」
「へっ?あ、ああ、うん。だいじょぶ、だけど……」
一応、ちらりと向かいに座るウィンリィを見てから、ツナは答えた。友達の前で電話をするのが少しばかり気になったからだ。そんなことを気にする子ではないとわかってはいるものの、しかしそうせずにはいられない。今日の彼女は、いつもの彼女とは少しばかり、いやきっと大分、勝手が違う気がするからだ。だがツナのそんな恐怖心からくる心配は、幸いにして意味が無かった。彼女が発した大声に驚き、先程まで固まっていた幼なじみはまた何事も無かったかのように芋けんぴに集中し始めている。なんだ、山本かと納得している様子だ。ほぅ、と胸中でツナが息を吐いたその時、昔馴染みの少年の声が耳元で響いた。
「ならよかった。しっかしツナ、すっげーなぁ」
「うん……って。な、何が?」
「や、すっげー声だったなって」
俺、耳がまだきーんってなってるぜ、と笑いながらのほほんと告げられた内容にツナははっとする。そしてその後で、とんでもない自己嫌悪を感じた。まったく自分はなにやってんだろうか。相手が山本だったからよかったものの。いや、いくら気心の知れた山本だからってあんな大声を電話で出していい理由は無い。自分だったら正直、ドン引きだ。普通の人なら、もしかしたら怒りだしてしまうかもしれない。
「…ご、ごめんね山本…」
心底申し訳ない気持ちから、ツナは謝った。気にすんなってと返ってきた声に、益々その気持ちが強くなる。思わず彼女は、肩を丸めるようにしてしゅんとなった。再びごめん、と謝りながらツナは、山本のこういうおおらかな所はホントにすごいと思わずにはいられない。それはもう、色々な意味で。幼なじみに対するそんな再認識を彼女がしている間、山本は、しっかしやっぱツナってすげーなぁ、などとこちらも再認識よろしくなんとも呑気なことを言って笑っていた。その、ツナにとっては苦笑するしかないものに本当に苦笑と相槌で返しながら、しかしそれでも先程までの(一方的に)張り詰めた会話とは真逆の会話に、ツナはなんだかほっとするような気持ちになった。安心、とは少し違うのだけれども。
だがしかし。そんな心地よさにいつまでも浸っていたいのに、何故かそうならずに厄介に巻き込まれるという星の下に生まれたのが彼女であった。いつのまにか完璧に世間話へと移行していった山本の話に耳を傾けながら、彼女ははたと今更なことに気が付いた。あれそういえば、と。ちなみにあとから考えたら、このふとした疑問は平和な休日を彼女自らの手で破壊する行為だったかも、しれないが。
「あっ。あのさ、山本」
楽しそうに今日の部活の練習について語る山本に、ツナは呼び掛けた。
「ん、なんだー?」
「あの、オレにさ。何か用、あったんじゃない、の?」
そんな至極まっとうな問いに、あ、忘れてたと本末転倒な前置詞を置いてから返ってきた言葉はツナにとってはひどく意外なことであった。
「あのさ、ツナって今ウチにいるか?」
「え?あ、ああ、うん。いるけど」
そんなことがどうしたというのだろうか。意図と意味がよくわからない質問に、ツナは思わず眉を寄せる。疑問を口にしようとしたその時、また山本の声が耳に響いた。
「あ ………。じゃあさ。もしかしてそっちに、ウィンリィ。いってないか?」
しかしその言葉は、その前を上回る疑問を彼女に提供した。ツナが思わずへっと聞き返したのと、携帯の向こう側が何やら急に人の声らしきノイズで騒がしくなったのは、ほぼ同時のことだった。
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