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乾いた大地の上に、不自然なほどに黄色い満月が輝いている。雲一つない、よく晴れた夜だ。そして、静かな夜だった。音は、ほとんどない。時折、夜行性の獣達の叫びが闇の中に響き渡るだけである。
大陸西部の外れ。大きな街からは離れたこの辺りは、寄り合い馬車さえ滅多に通らない。ただ、人々がその存在を忘れてしまったかのように錆びた線路の上を、三日に一度、汽車が通るだけである。しかしそれも一瞬のことで、いくら車輪が轟音を立てようとも。いくら先頭をゆく機関車のライトが闇を裂こうとも。通り過ぎてしまえば、何事もなかったかのように辺りはまた静寂と闇に包まれる。変化は所詮まやかしであって、真実には成りえない。決して。それはもしかしたら世界の様子に似ているのかもしれなかった。
人々が、失われた技術 過去からの遺産を発見し、それを用いるようになって数十年。確かに、生活は豊かになり楽にはなった。だがその優れた技術は、結局過去の滅んだ文明の力にすぎない。今を生きる人間が生み出したものではない。証拠に、彼らは遺産を修理することはできても新たに作り出すことはできないのだ。しかし、人々はそこには気付かない。限りがある、いつ尽きるともしれない先住の民の力に、縋るように日々を送っていた。その、危うさを見ようともせずに。手にした力が自らの力であるという幻想を、彼らは見ていた。
それはいっそ、盲信にさえ近いものだったのかもしれない。
辺りに、金属が立てる規則的な轟音が響く。月の光しかない夜を、人工的な光が照らしだす。今日は、失われた技術の一つである大陸横断列車がここを通る、その日であった。
大陸を走るこの列車の車両には、さまざまなものがあった。いくつかの等級に分けられた客室車両や、先頭部の機関車両。そして、街から街へと農産物や、鉄鋼石、石炭などの荷物を運んで行く貨物車両。複数あるその貨物車両の中の一つ、月明かりさえも差し込まないはずのそこに、何故か人影が三つあった。どうやら忍び込んだらしい。オレンジ色の光、携帯用ランプと思われる輝きに照らされたその顔は、どれも若い。
床に座り込んだ三人の内二人は、少年のそれである。しかし、その格好はいかにも冒険者といったものであり、また実際腰に鈍く輝くものを付けていた。形や大きさに違いはあるものの、そのどちらもが古代兵器の代表と言える、銃である。彼らは二人とも、まるで何か思考に浸っているかのごとく、鋭い目をしていた。いや、何かに警戒しているようにさえ見える。しかしその真意は分からなかった。ただ一つ言えるのは、この少年達はそれなりの経験と技量があるいうことであろう。少なくとも、この荒野を渡っていける程には。
しかし、対照的に。少年達の向かいに座るもう一つの小さな影から、そのような何かを感じることはできなかった。彼らと同様にランプの光に照らされたその顔は、ともすれば実年令よりも幼くさえ見える。少女だった。
彼女が身につけた服は、少年達のそれとは違って、機動性に欠けるものである。いや、違うという問題ではなかった。一目見ただけでも、上質の生地と高等な技術によって作られた高価なそれであると分かる代物であった。一見すると資産家の子供の普段着、といったところであろうか。決して、こんな貨物車両に無賃乗車をするような格好ではなかった。しかし、不思議なことに彼女の腰には少年達と同様、輝くものがある。その上彼女の、冒険者の証とも言えるそれは右手用と左手用の二種だった。同行者達のものに比べたら随分と小振りではあるが、それでも不釣り合いなことに変わりはない。しかし確かに、彼女の二丁の銃は存在を主張するかのように鈍く光っている。
だが、その持ち主たる少女の表情は、暗い。ただじっと、虚ろな瞳で輝くランプの光を見つめるだけである。彼女は、ため息をついた。もう何度目になるのだろうか。その行為に意味はないとわかっていても、それでもそうせずにはいられなかったのである。
思わず泣きそうになって、少女は、きゅ、と膝を抱えた手に力を込めた。ちょうど、その時である。
「――――見つけた」
少女が顔を上げたのと、銃を構える音がいくつも貨物車両に響いたのはほぼ同時のことであった。
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