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辺りに響いたのは、貨物車両には不釣り合いな少女の声だった。
暗闇を割るようなそれは、しかし穏やか、というよりはどこかしら勝ち気さを含んだものであった。純度の高い硝子のように澄み切った声色。闇夜においてもはっきりと聞こえてくる透明な声音。よく通るその声が、膝を抱え込もうとしていた少女の耳に、しっかりと届けられた。
本来ならば、それは驚きはするものの別段他の感情は付随しないはずである。しかし、今回ばかりは違っていた。ぴん、と張り詰めた空気が周りに巡らされている。先の少女の言葉も、辺りの様子と同様に険呑なものであった。
開けた車両の入り口から月明かりが差し込んできて、きらきら埃が舞っている。淡い光は徐々に徐々に物事の輪郭を顕にさせていった。農産物が詰まれたコンテナや床に敷かれた板の木目。そしてそれは侵入者たちにも当てはまっていた。月明かりの逆光で輪郭しか見えないとはいえ、しかし闇に慣れた瞳にはあまり関係がない。
侵入者は、貨物車両に忍び込んでいた少女たちと同じく、3人だった。走りぬけていく汽車に造り出された風を受けて、真ん中に立つ人物の髪が靡く。月の光を浴びたそれは輝きを増し、淡い金色にさらさら揺れた。長く細いその髪は、おそらく少女のものだろう。その彼女を筆頭に、両サイドにもまた人影が見えた。
暗闇に閉ざされていて、彼らの中の誰も、その表情を伺うことは出来ない。だが雰囲気と、あとは勘というものだろうか。彼らが皆、不敵な笑みを浮かべているのが見えなくとも感じ取れた。
一触即発、そんな空気が辺り一面に漂っている。貨物車両に乗り込んでいた少年たちは既に腰から自前の銃を抜いており、また侵入者たちも銃口を彼らに向けていた。どちらが先に引き金を引くことになるのか。どちらも動かぬ、無言の膠着状態がしばらく続いていった。だが、ただ独りだけ。この状況についていけてない者がいた。
「へっ、あの………え!?」
2丁の拳銃を腰に付けている少女だ。銃を向け合うという突然の展開に身体も頭もついていかず、おろおろと少年たちと侵入者たちを見交わしている。何なんだろうこの状況は。いったい何なんだろうこの緊迫感は。少女は完全に混乱に陥っていた。
貨物車両の入り口が開き、唐突に現われた人たち。しかも何も言葉も交わす事無くいきなり銃の標準をこちらに合わせてきたのだ。それは少女の同行者たちも一緒ではあるが、しかしだからこそ、この緊迫した空気に独りだけ置いてきぼりを食らったような感覚だった。
圧迫感が押し寄せてくる。小さな子供に後ろからのしかかられているようであった。
つっと少女の背中に冷や汗が流れていく。いや、背中だけでなく全身からいやな汗が流れだしていた。
重苦しい空気は普段なら意識せずとも行える呼吸をも難しくさせるほど、息苦しさを少女に与え続けた。何かを云おうと口を開こうにも、しかしその息苦しさに気圧され彼女は何度か開閉を繰り返すだけに終わっていた。
静寂だけが、世界を支配する。引き金を引く音も聞こえず、足音も聞こえず。ただただ流れる風の音と汽車が揺れる轟音だけが貨物車両の中に響いていた。
これから何が起こるのか。自分達はどうなるのか。
重苦しい空気に終いぞ耐えかね、侵入者に何の用があるのか少女は聞こうとして、しかしその言葉が彼らに届くことはなかった。
「…………やっと」
カツリ、とブーツが床に擦れる音が鳴る。車両の入り口に立っていた少女が、銃口を向けたまま混乱只中の少女に近づいていった。それに合わせて彼女を守るように少年2人が前に飛び出たが、侵入者は止まる素振りも見せなかった。
「やっと見つけたわ」
少女の恍惚とした声音が響く。少年たちまであと数歩というところで彼女はようやく立ち止まった。銃の標準はもちろん彼らに合わせたまま。後ろに控えている者たちの銃口も、やはり寸分違わず少年たちに向けられていた。
こくり、と少年たちの背中越しに侵入者を見つめる少女は喉を鳴らす。緊迫感は最高潮だ。恐る恐る目の前を見据える。その瞬間、立ち止まっていた少女が何やら笑ったような気配がした。
「逃がさないわよ。覚悟しなさいっ、賞金首!」
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